会いたい
 一面に揺らめいていた夥しい数の灯りは、もう後わずかになっていた。
 ・・・ふっ。
 小さく息を吐きかけられ、また、その内の一つが消える。
 立ち上る細い煙を見詰めながら、一人の男がゆっくりと口を開いた。
「それは小雨の降る、寒い夜のことだった。場所は、ある国道沿いの自動販売機だ。その日、一人の若い女が何か飲物を買おうとそこで車を止めた―――」
 男は淡々と語る。蠢く炎による陰影が男の顔を不気味に彩る。
 ふ・・・。
 やがて男の話は終わり、蝋燭の炎が消された。
 残りは、一本。
 短くなるたびに継ざ足され、三日三晩かけて行われた百物語は、今、ようやく終わりを迎えようとしていた。薄暗い室内に緊張が走る。
「よし・・・それじゃあ、最後の話だ・・・。あれは確か二十年前のこと―――」
 かすかに期待に満ちた声が陰々と響く。声とは裏腹に、話される内容は身の毛がよだつほど怖い話である。
 しかしそれもほどなく終わり・・・とうとう室内をか細く照らしていたたった一つの灯りが、静かに消された。
 三秒・・・五秒・・・十秒・・・。
 一分・・・二分・・・。
 無情に感じるほど冷たい沈黙の時間が流れる。
 男がごくりと喉を鳴らした。
 更に一分・・・二分・・・。
 だが、どれほど待っていても、何も起こらない。
 とうとう男が悲痛な叫びを上げた。
「何故だ!何故、霊が現れない?!頼む、幽霊でもいいんだ、誰かオレをこの孤独から救ってくれェ・・・!!」
 ―――人類の死に絶えた地球でただ一人生き残った男は、真っ暗闇の中、激しく慟哭した・・・。


2003.12.16