秋色

 冷たい風が吹き始めたある夜のこと。
 あんまり月が皓々とキレイだったので、僕は散歩に出掛けることにした。空気がひんやりとしていて、僕は少しだけ首をすくめて歩く。月はどこまでも僕と共にあって、それがなんだか嬉しい。
 マンションとマンションの隙間にある小さな公園に着いた時、ひときわ冷たい風が吹いて、僕はぶるっと身震いした。
 うーん、もう少し厚着すれば良かったかな?
 体がすっかり冷えてしまう前に、家へ帰った方がいいかも知れない。
 ピカリと輝く月を見上げて踵を返す。と。
 近くのカエデの木から小さな小さな呟きが聞こえてきた。
「ああ、まちがえちゃった、まちがえちゃった!どうしよう!」
「・・・誰かそこにいるのかい?」
 カエデの下の方に向かって僕が声をかけると、ぴょん!と小さな生き物がカエデの葉から飛び上がった。
「わあ!にんげんに、見つかちゃった!」
「・・・妖精?」
 親指くらいの不思議な生き物が葉の陰に隠れて首を振る。
「ちがいますぅ。葉精です」
「??」
「葉っぱの精ですぅ」
「へーえ」
 どこか遠い国の民族衣装のように赤や黄のカラフルな服を着た小人が、こわごわとした様子で僕を伺っている。
「一体、何をしているの?」
「おしごとですぅ。今、たいへんなところなんです、ジャマしないでください」
 葉精はとても真剣な顔だ。僕は申し訳ないなあと思ったけれども好奇心に勝てず、そっと彼(彼女?)に近付いた。
 葉精はますます身を縮ませる。
 そんな彼の乗るカエデの葉が、今まで見たことがないほど真っ黒になっていることに、ふと僕は気付いた。見上げてみると、この木の葉はほとんどが黒だ。
「どうして・・・」
 葉が黒いんだろう?と言いかけたら、葉精がしくしくと泣き出した。
「見ないでくださいぃ」
「君が黒くしたの?」
 目を丸くして聞くと、葉精はこっくり頷いた。
「ボクたちのしごとは、葉っぱをあかくさせることなんです。でもボク、手順をまちがえちゃったの」
 へーえ、紅葉するのは葉精のしわざだったのか。それは知らなかった。
「葉っぱを一度ひょう白して、それからあかい色をぬるんです。でもボク、あわてて色をぬかずにあかをぬっちゃったの」
 なるほど、緑色の上に赤色を重ね塗りしたから、こんな色になってしまったんだ。
「もう色をぬくのはムリだし、このままじゃボク、神さまにおこられちゃう・・・。どうしよう・・・」
 ボクはこの小さくてドジな葉精が放っておけなくなってしまった。そこで、一緒に良い方法を考えてみようよと誘いかけた。
「いいんですか?」
「いいよ。といっても、いい方法が思いつけるといいんだけど・・・」

 さて翌日。
 カエデの木は見事に美しい紅色に変身して、町の人々の目を楽しませることとなった。ただし数日の間は変なニオイがしていたことは、ご愛敬。だって結局、油絵の具で上から赤く塗ってしまったからネ。