花火

 アサ星にある宇宙ステーション“ユーグ”には、二階に大きなレストランがあります。そのレストランで、アル氏は友人のカムル氏と顔を合わせていました。
 カムル氏はクラン社の社員です。宇宙に散らばる珍しい物を探し出してはあちこちの星のお店に卸すという仕事をしています。そのため、年中宇宙中を飛び回っていて滅多に会えません。ですから今日は本当に久しぶりの再会でした。
「カムル。いつまでここでのんびりしていられるんだい?」
「そうだなあ。銀河標準時で三日くらいかな。次はルアン星まで行く予定なんでね」
「ルアン!またずい分遠いところへ……」
 アル氏は目を丸くしました。何故ならルアンは、ユーグから高速宇宙船で二週間もかかる辺境の星だからです。
 そもそもアル氏はスルスフ星で農場を営んでいて他星へ行くことなどほとんどありません。星から星へと渡り歩くようなカムル氏の生活は、到底想像がつきませんでした。
 しかしカムル氏はそんな生活にすっかり馴れているのでしょう、気にする風もなくニコニコと言いました。
「今度会う時にはルアンの名物・夜光石でもみやげに持ってくるよ。楽しみにしていてくれ」
「うん、ありがとう。……でも」
 アル氏は素直に頷きましたが、少しだけ首をかしげました。
「僕としてはみやげより何より、君が元気で会いに来てくれることの方が何倍も嬉しいかな。近頃は物騒だからね。悪い他星人に捕まったりしないか、すごく心配になるよ」
 友人の優しい心遣いに、カムル氏は感動したようでした。だけども、ちょっとだけ気まずそうな苦笑いになりました。
「ははは。大丈夫……と言いたいところだけど、確かに物騒な時もあるかなあ。この間も、ある辺境の星に降りようとしたら、いきなり攻撃をしかけられてさ」
 軽い口調でしたが、アル氏は飛び上がりました。
「なんだって!そんな野蛮な星があるのか?!」
 警告もなしに攻撃するなんて信じられません。
 憤慨するアル氏に、カムル氏は「まあまあまあ」と穏やかな調子でなだめました。
「攻撃といってもね、大した威力じゃなかったんだよ。宇宙船の外壁に傷もつかなかったんだから。少しビックリするくらいのものなんだ」
 そう言ってからカムル氏は椅子に深くもたれてゆっくり目を閉じました。その時の光景を思い出しているのでしょうか。
「そう、攻撃は本当に大したことなかったよ。それよりも、爆発の際の閃光がとてもキレイで思わず見惚れてしまったものだった。こう、まぁるく球形にね、赤や青や白に光って……」
 キレイな爆弾などアル氏は見たことも聞いたこともありません。なのでアル氏は真剣な表情でカムル氏に詰め寄りました。
「そんなのん気なことを言ってちゃ駄目じゃないか。ちゃんと銀河連邦に報告して危険区域として封鎖してもらわなきゃ!」
「心配性だなあ、アルは。他の商船だって何度かその星に行ったことがあるくらいなのに。……とにかくその星の生物はなんだか変わってるらしくてね。僕らの間では有名なんだ。実際、あの爆弾を見てその通りだと思うよ。どうやら彼らは爆弾の威力ではなく、どれほど美しい爆発を起こせるかをお互いに競っているようでさ。こっちでドンドンドンと光ったら、向こうでも張り合うようにドンドンドン!そして決まった時期の夜にしか戦わないんだ。―――なかなか奇妙で面白いだろ」
「君の無頓着さの方が僕には驚きだよ」
 アル氏は呆れたようにため息をつきました。そして窓から黒々とした果てしない宇宙空間を眺めました。
 何億個もの星。キラキラと宝石のようです。そこには珍しい習慣を持つ生物だって、きっとたくさんいるのでしょう。
「ま、また行く機会があるのなら、その時は安全圏から戦いの映像でも撮ってきたらいいさ。たぶん、異星人研究者が大喜びするだろうから」
「そうだなあ」
 カムル氏はくすくす笑いました。
「その時は、きっと君にもその映像を見せるよ。絶対、感動するから」
「いいや、僕は爆弾なんかに感動はしないね」
 アル氏は冗談じゃないというように固い表情で断言しました。けれどカムル氏は、自信のありそうな調子でそれに答えました。
「そうかな?現地語ではその爆弾を“花のような火”と呼ぶんだよ。とてもうまく表現していると僕は思うね。ま、百聞は一見にしかず。とにかく一度見てみるといいよ……」