発電力

 ヒラメキ研究所のヒラメキ博士が、ある時とても画期的な発明を発表しました。その名も『ストレス発電機』。昔の電話機に似たその小型発電機は、なかなかどうして、素晴らしくよく役に立つのです。しかも使い方はいたって簡単。
 まず、電源をONにします。
 次に受話口で日頃の鬱憤を思いっきり話します。ただ、それだけ。
 すると本体内でストレスエネルギーが発電力へと変換されて「ああ、電車に乗り遅れてしまった!」という些細な鬱憤などでもなんとお茶が沸かせてしまうというわけなのです。ストレスって、実は意外に大きなエネルギーがあるんですね。
 省エネに大きく貢献し、その上ストレス発散にも効果的。まさしく一石二鳥の優れものではありませんか!

 ―――発電機は発売と同時に飛ぶように売れ、やがて半年が過ぎました。
 そしてある朝のことです。ヒラメキ博士の元へ研究所員のトノダ君が駆けこんできました。
「博士!大変です!」
「どうしたんだね」
「発電機に重大な問題が見つかりました」
「なに?」
 博士は驚いてトノダ君に向き直りました。トノダ君は報告書の束を博士に差し出し、しどろもどろに説明を始めました。
「あ、あのですね、ストレスエネルギーを発電力に利用した場合、その、ストレスの持つマイナスエネルギーとでも言うんですか、まあそういったものがですね、そのまま流れてしまうんですよ」
「流れる……?」
「ええ、ほら、マイナスイオンとかあるじゃないですか。つまりあれと同じような感じで、ストレスエネルギーを電力源として明かりを灯せばストレスイオンのようなものが発生するんです。さらに、そのストレスイオンに人体が長時間晒されるとただ寝ているだけでもストレスが溜まってしまうんですよ!」
「なんと!」
 博士は唸りました。これは大誤算です。ストレス発散どころか増幅になるなんて!
「それでこのストレスイオンが原因と見られる夫婦喧嘩やいざこざが多数起こっています。……博士、どうしましょう」
 博士は元気なく首を振りました。
「どうもこうも……回収するしかないだろう。それから改善案を考えることにするよ……」

 ――こうして世紀の大発明は発売一年にも満たないうちに姿を消しました。
 次に博士は発想を逆転させ『幸せ発電機』を開発したのです、が。売れ行きは不調のようです。何故かって?幸せの力がストレスの足元にも及ばないからですよ!さて、あなたの幸せはどうですか?


2002.2