「M課長のネクタイ、いいデザインよね」
湯沸かし室で同僚のKさんと顔を合わせた途端、彼女がにこやかにそう言いました。A子さんは思わず目をぱちくり。だって今日のM課長のネクタイは、紫の地に黄色の小さなハートがたくさん飛んでいるという、お世辞にも“いいデザイン”とは思えない柄だったからです。Kさんはいつもオシャレにうるさい人で、M課長のセンスについてはよく非難をしていたものでした。一体どういう風の吹き回しでしょう。
返答に困ったA子さんに気付かず、さらにKさんは言います。
「それからT係長ってよく気がつくし仕事もテキパキするし、すごいわあ」
A子さんはとうとうあまりに驚きすぎて腰を抜かしそうになりました。Kさんがいつも言っていることとは全く正反対ではないですか!
「Kさん…急にどうしたの?」
声をひそめて恐る恐る聞くと、Kさんはいたずらめいた表情でそっと人差し指を唇に当てました。
「あら、私はいつもと同じように喋っているわよ。ただ、今日は新しい口紅をつけてみたの。とっても面白いリップよ。誉め口リップというんだけど。――あなたもつけてみたらどうかしら?」
それから一ヶ月ほどが経ちました。
近頃、KさんもA子さんも社内でちょっとした人気者です。
「Kさん、どんなに忙しくても丁寧な対応をしてくれてとてもいいよな」
「A子さんがいつも優しい言葉をかけてくれるからイヤな仕事でもがんばろうって気になるよ」
……さて、あなたも誉め口リップを使ってみませんか?
03'3.27
|