がたん、ごとん。がたん、ごとん。
夕闇の中、列車が走る。それほど混んではいないけれど、様々な人を乗せた列車が。
―――自分の所属するバスケ部のメンバーと、共に帰る途中であった田中夕子は、ふと、前方に視線を向けながら口を開いた。
「そういえばさぁ、ずっと前にマンガかなんかでサ、サルが電車を運転しているのに乗っている人は誰も気付かないってやつがあったんだよね。なンかそーゆうのって、マジであったりしそうなんて思うことない?」
「はあ?何それ」
「ンなこと、あるわけないじゃーんっ」
キャハハハ。
伊藤順子が顔をしかめ、鈴木春子が爆笑する。夕子は、ただひょいと軽く肩をすくめた。
「ま、ね。そんなの、わかってるけどね。でもホラ、映画で宇宙人が人間に化けてるとかあるじゃん?そういうの見てたら、実は知らないだけで人間は異生物に侵略されてたりするのかもしれない―――なんて時々考えちゃうわけよ」
春子の右隣で扉へ寄りかかっていた山田洋子が前髪をいじりながら吹き出した。
「夕子ってばモーソーしすぎーっ。小説家にでもなりなよー」
K駅で降りた少女は、そっと胸を撫で下ろした。
「はー、びっくりしたー。なンか急に変な話になるんだもん。正体バレたかと思っちゃった」
呟きながらパタパタとスカートの裾を叩く。どこにも尻尾が出ていないことを確認して、少女はゆっくり改札口へと向かった―――。
M駅で降りた少女は、列車を降りるなり手鏡を取り出し覗きこんだ。
じっくり己の瞳の色と犬歯の具合を点検する。特に変化はないように見える。それでもしばらく鏡とにらめっこしていたが、やがて安心したような笑みを浮かべた―――。
H駅で降りた少女は、急いでトイレに駆け込んだ。
個室に入り扉を閉め、そして恐る恐る足元の影の様子を確かめる。くっきり生じている黒影を見、そこで初めて安堵の吐息を漏らした。
「なーんだ、消えてないじゃん。良かったー」
2000.2.7