服を着た王様

「やあ、北村君、せっかくの休みにすまないが、すぐ研究所の方に来てくれんかね」
 春うららかな日曜日の午後。
 子供と遊んでいた僕に、博士から電話がかかってきた。博士の気まぐれはいつものこととはいえ、休みの日までつきあわなきゃいけないなんて、勘弁して欲しいもんである。
 それでも僕は、世紀の大発明が出来たという博士の言葉に心動かされ、3歳になる僕の子供―――彩を連れてさっそく研究所へと向かった。
 彩はおおはしゃぎだ。うーん、博士のロクでもない発明品を楽しみにしている数少ない人物かもしれないなあ。

 ―――車で約15分。研究所についた。
 途中で眠ってしまった彩をだっこして、所内に足を踏み入れる。
 がらくたを避けながら、博士の部屋の扉をノックした。
「おお、北村君!」
 すぐに博士は扉を開け、満面の笑顔で、
「どうかね、この素晴らしい発明品は!昨日の夜中に思いついてね、徹夜で作ったんだよ」
「……はあ」
 僕は曖昧に頷いた。
 博士はいつもと同じ、薄汚れた白衣を着ていた。上機嫌なのか、ステップを踏んで意味ありげな視線を僕に送る。
 僕はきょろきょろした。
 だけど机の上には何もなくて―――部屋の中も本が散らばっているだけだった。発明品とは、一体どこにあるんだろう?
「ふふふふふん。……いかんねえ。北村君、純粋になりたまえ。やはり心は美しくないといかん!」
「……はあ。あの、博士」
「ん?」
 まったくもって、博士の思考回路は分からない。ともかくも僕は、おずおずと問い掛けた。
「一体何を……発明したんです?」
 博士はにんまり笑った。
「君、北村君!『裸の王様』という話を知っているかね」
「ええ、知っていますよ」
「つまり、それだよ。ただし、その話とは反対のものだけどね」
「は?」
 その時、彩が目を覚ました。
「んー」
「おや、あやちゃん、おはよう」
 博士がやさしく声をかける。
 そして彩は、博士を見て不思議そうに首を傾げたのだった。
「―――はかせ、どうして はだかなの?」