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大地の西の果て、西のそのまた西のはしっこに『バルーン』という小さな村があります。
その村は、とってもふしぎな村です。
どうしてかって?
村中に、風船のなった木があるからです。そして村人は、なんでも風船をつかいます。
たとえば風船にくくりつけて、重いにもつをはこんだり、二階へ行くのに風船を持ってシューッと上がったり。
ゆうえん地みたいな場所もあって、風船かんらん車や、風船ひこうきや、風船トランポリンであそぶこともできます。
ね、すごくおもしろい村でしょう?
今から五十年くらい前のこと。
そのころ、村には名前がありませんでした。とてもまずしい村で、畑ではあまり野菜ができませんし、よく水が不足していました。子どもたちは、いつもおなかが空いているから、ひょろひょろの細い子ばかりでした。
ある日、一人の背の高い男の人が村をおとずれました。その人は、たくさんの風船をもっていました。
「さあさあ、風船はいりませんか!幸せをはこぶ、風船ですよ!」
だけど、だれも風船を買いません。
男の人は、村をぐるりと回ったあと、つかれたようにすわりこんでしまいました。
すると、メイという小さな女の子が、おそるおそる男の人に近づきました。
「ねえ、おじさん。風船にさわってもいい?」
「ええ、どうぞ」
男の人は、にっこりわらって、風船を一つ、メイに手わたしました。
メイはうれしそうに風船をひっぱって、くるくるとおどります。
「わたし、風船見たの、はじめて!ふわふわしてて、ステキね」
「そうかい。それは良かった」
メイはしばらくの間、風船を見上げていました。それから、ざんねんそうに男の人へ風船をさしだしました。
「ありがとう」
「……風船は、いらないかい?」
「ほしいけど、お金がないの」
男の人は、メイをじっと見つめました。そのうち、やさしい笑顔になりました。
「それじゃ、水をコップに一ぱいもらえないかな?その代わりに、この風船をあげるから」
「ほんと?!」
「ああ、本当だよ」
メイは飛び上がって、水を取りに家までかけだしました。
こうして、メイは赤い風船を一つ、もらいました。
男の人は水を飲み、また別の村へ行きました。
メイは、赤い風船をとても大事にしましたが、一ヶ月ほどたったある日のことです。とつぜんパチン!と風船がわれてしまいました。
「風船が、われちゃった!」
メイは、かなしくって泣きだしました。
おとうさんとおかあさんが、いっしょうけんめい、メイをなぐさめますが、メイは泣きやみません。
そのとき、おかあさんが風船のかけらの中に、小さな黒いものがあるのに気づきました。
「おや?メイ、見てごらん。風船の中に、何かのタネが入っていたみたいだよ」
「タネ?」
メイはなみだでぐしゃぐしゃの顔のまま、おかあさんの手を見ました。
おかあさんの手の中には、黒くて丸いタネが一つ。
「これは、もしかすると風船のタネかも知れないね。メイ、畑にうえてごらん」
「……うん」
メイは、おかあさんから受けとったタネをぎゅっとにぎりしめました。
メイがうえたタネは、一週間すると小さな芽が出ました。
一ヶ月たつと、メイの半分くらいの大きさになりました。それから十日もしないうちに、メイの背を追いこし、半年後にはメイのお家くらいの大きさになりました。
そして、次の年の春。白くてかわいい花をたくさん咲かせました。
「これは、何の木?」
村の人たちが、通るたびにふしぎそうに聞きます。メイは、
「風船の木よ」
と答えますが、みんな笑って信じません。
そして、秋。
風船の木は、なんと、本当に風船の実をつけました。
ゆび先くらいの風船は、少しずつ大きくなります。最初は白い色でしたが、大きくなるうちにいろんな色に変わりはじめました。
「すごい!本当に風船の木だ!」
村人たちは、大おどろきです。
たくさんとれた風船は、メイが村の子どもたちにくばりました。それでも余った風船は、メイのおとうさんが、町へ売りにいきました。
しばらくすると、風船はまたわれてしまいましたが、中からやっぱりタネが出てきました。
「よし、村中に、風船の木をふやそう!」
村人たちは、村のあちこちにタネをうえはじめました。
こうして、バルーン村は有名な風船の村になりました。今はたくさんの人がかん光におとずれ、とてもにぎやかな所です。
もしも、あなたが遠い遠い西の果てまで行くことがあったら……ぜひ、この“バルーン村”にもよってみてくださいね。
2009.3
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